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2020.08.01
大勢いた海外観光客がほぼゼロに。変化する街・渋谷で生き残るには
田崎将司(About Life Coffee Brewers)
産地から精製方法、焙煎、淹れ方までこだわり抜いた、スペシャルティコーヒー専門のコーヒースタンドが渋谷区道玄坂の一角にある。
シンプルでこじんまりとした店構えの「ABOUT LIFE COFFEE BREWERS」では、コーヒー本来が持つフルーティーな味わいに重きをおいた、ここ最近主流の深煎りコーヒーとは一線を隠すメニューを展開しており、地元の人たちやビジネスマンはもちろん、海外観光客の中には毎朝足繁く通う人すらいるほど、コーヒーファンから絶大な支持を集めている。
単にコーヒーを提供するだけでなく、その味を楽しむことで、暮らしの中に「幸せ」や「豊かさ」を感じて欲しい。そんなコンセプトでスタートした「ABOUT LIFE COFFEE BREWERS」は、激変する街「渋谷」での暮らしに何を思うのか。バリスタとして店に立つ田崎将司さんに話を聞いた。
取材・テキスト:黒田隆憲 / 写真:天田輔
YOU MAKE SHIBUYA連載企画「渋谷のこれまでとこれから」
新型コロナウイルスの影響で激動する2020年の視点から、「渋谷のこれまでとこれから」を考え、ドキュメントする連載企画。YOU MAKE SHIBUYA クラウドファンディングとCINRA.NETが、様々な立場や視点をお持ちの方々に取材を行い、改めて渋谷の魅力や価値を語っていただくと共に、コロナ以降の渋谷について考え、その想いを発信していきます。
──「ABOUT LIFE COFFEE BREWERS」では、エチオピア、グァテマラ、ブラジルの3種類の豆を使用し、実際に産地まで足を運んでいるそうですね。そうしたこだわりは、どのような思いから来ているのでしょうか。
田崎:現在までに弊社では、アフリカはエチオピア、ルワンダ、ケニア、中南米はグアテマラ、ホンジュラス、ブラジルといった産地へ訪れています。スペシャルティコーヒーの大切な概念に「トレーサビリティ(透明性)」と「サスティナビリティ(持続可能性)」があります。その2つの概念を体現するためには産地へ赴き、現地の様子や取り組みなどを、スタッフだけでなくコーヒーを楽しむお客さんにも伝えていきたいという思いがありました。私自身も代表とともに、毎年アフリカのルワンダへ訪れ、産地を見て回り情報をアップデートしています。
産地を訪れて分かったことは、素晴らしい味わいのコーヒーは良い環境で作られているということです。現地で多くのコーヒーのテイスティングを行い、美味しいと思ったコーヒー農園へ訪れますが、その農園では歌いながら仕事をする人たちや、楽しそうな雰囲気がとても印象的でしたね。

──お店の一押しメニューを教えてもらえますか?
田崎:カフェラテは、ホットもアイスもおすすめです。お砂糖を入れなくても甘さを感じて頂けるかと思います。
──豆の選定はもちろん、袋を小分けにするなど、お客様が美味しく飲めるようにするための工夫もたくさんされていらっしゃいますよね。僕も豆を買って家で淹れているのですが、「ABOUT LIFE COFFEE」で購入した豆を、自宅で美味しく飲むコツを教えてください。
田崎:コーヒー豆を何グラム使い、お湯は何ミリリットル注ぐのか、時間がどのくらいで出来上がったかを必ず確認するようにしてください。そこから好みの味に調整していくことで、美味しいコーヒーが毎回同じように作れると思います。
──いつも目分量で入れていました……参考にさせていただきます! お店を訪れるお客様は、どんな方が多いですか?
田崎:近隣で働くオフィスの方々や、コーヒーファン、また海外観光客のお客様がとても多いです。特に海外観光客の方で、日本に来るたびに近くの宿を取って毎朝飲みに来てくれる方も多く、とても嬉しいですね。「ここに来たかった」と、店頭で楽しそうに話してくれる海外観光客の皆さんと過ごすのはとても嬉しい経験でした。
緊急事態宣言が発令されて、Instagramにて臨時休業のアナウンスをした際にもコメントやメッセージで多くの海外の方々から頂き、励まされました。
──お店を渋谷に出して良かったと思うことは?
田崎:情報への感度、編集能力が高く、新しいカルチャーに敏感な渋谷だからこそスペシャルティコーヒーのカルチャーを広めるのに合っていると思います。好きな音楽アーティストが渋谷でライブがあって寄ってくれたり、学生の頃に好きだったグラフィックアーティストが常連さんであったり、作品が好きで知っている人とふとした瞬間に出会えてしまうのは好きなことのひとつです。夢がいきなり現実になるような。
──音楽やデザインがお好きなのですね。
田崎:音楽はジプジージャズという、ジャズの中でも少し認知度の低いジャンルの音楽やメタルなどは好きです。デザインですと、家具はアルテック、美術はエゴン・シーレ、建築家のルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ、写真家の杉本博司、鈴木理策などが好きです。
統一性がないので少し変わっているかと思います。
──ところで、渋谷の好きなスポットというと?
田崎:「うさぎ」というラーメン屋が好きです。坦々麺がおいしいんですよ。
──新型コロナウイルスの影響で多くの困難を経験されていると思います。ここまでどういった状況だったのか、教えていただけますか?
田崎:緊急事態宣言が発令した4月から約1ヶ月間の間、休業を余儀なくされました。非常に多く来店のあった海外観光客がほぼゼロになり、1ヶ月ぶりにお店を開けたときには近隣のお店が閉店、オフィスの方々も退去されていたり、出社もほぼなかったりする状況でした。
全く別の街のような印象でしたね。東京都出身で30年生きてきましたが、あれほどまでに人の少ない道玄坂は見たことがなかったです。
──コロナにより、お店の方針で何か変わったことはありましたか?
田崎:SNSでの告知などはかなりセンシティブになりました。「来てください」とも言えず、積極的な来店を促す印象のフレーズなどは避けるよう努めました。今でも難しさは感じています。
──特に困っていらっしゃること、そしてその解決のために必要なサポートで期待されていることを教えてください。
田崎:渋谷という街に、人々が集いにくくなっている現状があります。でも、そんなときこそコーヒー1杯の力を信じています。是非お気軽にコーヒーブレイクをしに来て下さい。
──今回の出来事で、渋谷の文化にはどのような変化があると思いますか?
田崎:渋谷は常に「変容し続ける街」だと思っています。これからのカルチャーや働き方を模索し続けるチームが生き残り、また新たな可能性を生み出していく。これまでと同様、新たな状況に適化しながらカルチャーは成熟していくと思いますね。
──守りたい渋谷の魅力や、その理由を最後にお聞かせください。
田崎:「とりあえず渋谷で!」という場所であり続けて欲しいと思います。人々が集まりやすく、あらゆる新しいカルチャーが始まる場所であり、ワクワクのする街。そんな渋谷でいて欲しいですね。
■INFORMATION
About Life Coffee Brewers
東京都渋谷区道玄坂1-19-8
TEL 03-6809-0751
WEEKDAYS 8:30-19:00
SAT-SUN & HOLIDAYS 10:00-19:00
http://www.about-life.coffee/
実行委員長
大西賢治
渋谷区商店会連合会 会長
不要不急の外出の自粛など、皆さんの協力のおかげで最大の危機を乗り越えることができたと感謝しております。しかしながら、カルチャーの発信地でもある渋谷を支える多くの商業や産業は、いまだ大きなダメージを受けています。事業者の方々はこの先に不安を抱きながらも、日々努力と工夫を重ねながら事業を存続できるように頑張っています。みなさんが、安心して渋谷を訪れ、安全に楽しめる街になり、渋谷の街が元気を取り戻すことで、渋谷だけではなく全国の商店会も活気が出ると思っています。渋谷を愛する皆さんのお力をぜひお貸しください。