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2020.09.02
「変わり続けるマインド」だけは変わらない—地元ラッパーからみた渋谷の今昔
マチーデフ(ラッパー)
YOU MAKE SHIBUYA クラウドファンディングのプロジェクト公開直後、運営事務局に一通のメールが届いた。差出人は、ラッパーであり、CM ・映画・テレビなどのラップ監修、ときにはアイドルのラップ指導なども手がける “ラップクリエイター”:マチーデフ氏。渋谷のカルチャーの中で育ち、いまも渋谷から発信を続ける彼の熱い想いが綴られた文面から、我々はその胸の内をあらためて掘り下げてみたいと思い立った。
取材・テキスト:天田輔 / 写真:片山祐輔
──こんにちは。マチーデフさんは渋谷区出身・在住なんですよね?
マチーデフ:渋谷区の初台・幡ヶ谷で生まれ育ち、今も初台に住んでます。
だから渋谷の繁華街はとても身近に感じながら過ごしてきました。
──昔から渋谷の街で遊んでいたんですね?
マチーデフ:渋谷のカルチャーからはすごく恩恵を受けて育ったと思います。
反面、例えば中学生くらいの頃に怖い高校生にカツアゲされたり…というような洗礼ももちろん浴びています(笑)。 “チーマー”と呼ばれる人たちがまだ少し街にいた頃でしたし、今に比べて怖い人がたくさんいた気がします。でも洋服を買うのが好きで、渋谷には洋服屋さんがいっぱいあるので、頑張って渋谷に行っていました。
あとはラップバトルに出場して怖い人たちに囲まれたりとか……。
──でも、苦心して享受したカルチャーは、若かりしマチーデフさんの体に染み付いたことでしょうね。
マチーデフ:渋谷が地元であると同時に、自分の好きなカルチャーがたくさんそこから生まれていました。レコード屋に行くのも自転車で行ってましたし、いまだにクラブへ遊びに行くのもライブをしに行くのもママチャリです(笑)。
地元ならではということでいうと、昔、SHIBUYA-FMというコミュニティーラジオで童子-Tさんが「WARP ON THE TABLE」という番組をやっていて、それを毎週聴いていました。ROCK-TeeさんやKREVAさんもよく出演されていたのを覚えています。でもこれってコミュニティーラジオで、今みたいにネットで聴けるわけでもないので、渋谷で暮らしているからこその特権だと思うと嬉しかったです。
──渋谷から発信されるカルチャーのコアな部分を、渋谷の真ん中でより濃厚に享受していたわけですね。
マチーデフ:このクラウドファンディングのリターンには、NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDのライブチケットもありますが、NITROといえば2001年、20歳の僕が参加していた渋谷区の成人式に、Tinaさんの客演でNITROのメンバーもステージに出てきたのはビックリました。そんなことも渋谷ならではですよね。
彼らは「座ってないで立って盛り上がっていこうぜ!」と僕たち 新成人を煽るんですが、それに呼応して「ウォー!」と立ち上がると近くにいる係員さんたちから「座ってください~」と注意される…なんとも思い出深い成人式でした(笑)。
──そんな渋谷はいま、再開発という面でも、コロナという面でも、大きな変化の時期を迎えています。地元でカルチャーを真正面から受け止めてきたマチーデフさんからみて、それでも変わって欲しくないことというと、渋谷のどんな部分ですか?
マチーデフ:残り続けて欲しいものはいっぱいあります。でもこの街に住んでいると、残り続けるものなんてないんだなって思っちゃいます。
僕が生きてきた40年で自分の地元初台ですら景色は変わりまくっています。子どもの頃よく立ち読みしてた本屋さんはもう8回ぐらいテナントが変わって今カフェになっていたり。野球をした空き地にはマンションが建ち、中学校も高校も合併されて無くなり。とにかく思い出の景色なんかは容赦なくどんどん無くなっていくし、無くなるどころかもう何周も塗り替わって跡形もなかったり…郷愁に浸る暇もないスピード感です。
6年前に区内で撮影したPVがあるのですが、それを見てもすでに変わってる景色がチラホラ。
だから、これからも残り続けるものはないんじゃないかと思えてきます。ただ唯一、残り続けるものがあるとすれば、それは「変化し続けるマインド」自体なのではないかと。それだけはこれからも渋谷に残っていく気がします。
──とめどなく変化を続けるこれからの渋谷に、期待することはどんなことでしょうか?
マチーデフ:これからも多様性を受け入れる街であり続けるならば、社会のオンライン化で振り落とされる“テクノロジー弱者”をも受け入れる街であってほしいなと思います。
たとえば「バーチャル渋谷」のように、渋谷らしく時代の先端を行く素晴らしい試みがある一方で、年々スピードが加速するテクノロジーの進化や時代の変化に対応できず、振り落とされていく人もたくさん出てくる気がします。そういった人たちも受け入れる渋谷であってほしいです。
テクノロジーの進化や時代の変化によって人々の価値観の差異は今以上に広がっていくのかもしれません。今はSNSなどもありますので、同じ価値観の人がすぐ繋がることができる一方で、価値観の違う人を許容する気持ちは年々薄れているような気がします。価値観の近い人と繋がることに慣れてしまうと、ちょっとした意見の違いに対して過剰な拒否反応が出てしまうということもあるのでしょう。
でもSNSと違って、“街”には今も昔もいろんな人がいるわけです。SNSのタイムライン上で隣にいる人と、信号待ちをしている時に隣にいる人とでは、自分との価値観の差異レベルが全然違うと思います。本当の意味でのダイバーシティとは、そういった価値観の違いを理解し合うことにあると僕は考えています。だから渋谷には、あらゆる人が集まれて、その違いをお互いに理解し合える街であってほしいと思っています。
■INFORMATION
マチーデフ
渋谷区生まれ幡ヶ谷育ち、メガネのやつは大体友達。
1997年にラップを始め、オトノ葉Entertainmentのラッパーとして数多くの作品をリリース。
2014年にソロとなりアルバム「メガネデビュー。」を発表。自主制作ながらiTunesヒップホップアルバムチャートで1位を獲得した。
またヒプノシスマイクの作詞や、CM・映画・テレビ番組等のラップ企画の監修を務めるなど“ラップクリエイター”としても精力的に活動。その実績は累計100件を超える。
さらに毎週複数の専門学校で授業を行う“ラップ講師(10年目)”でもあり長年の経験で培った豊富なメソッドを活かしアイドルのラップ指導も手がけている。
2019年、13曲入りのフルアルバム「メガネシーズン」を発表。
https://www.macheedef.com
https://www.youtube.com/channel/UCdkBFYoY9HdkvG3jduQFYAA
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実行委員長
大西賢治
渋谷区商店会連合会 会長
不要不急の外出の自粛など、皆さんの協力のおかげで最大の危機を乗り越えることができたと感謝しております。しかしながら、カルチャーの発信地でもある渋谷を支える多くの商業や産業は、いまだ大きなダメージを受けています。事業者の方々はこの先に不安を抱きながらも、日々努力と工夫を重ねながら事業を存続できるように頑張っています。みなさんが、安心して渋谷を訪れ、安全に楽しめる街になり、渋谷の街が元気を取り戻すことで、渋谷だけではなく全国の商店会も活気が出ると思っています。渋谷を愛する皆さんのお力をぜひお貸しください。